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思いついたときにただ色々書いています

子猫の抱擁

 雨の降る神社で抱いた子猫のことを想った。

 たった一言、自分の性別に関わることを言われた時、私は憎悪と怒りに押しつぶされ、今にもこの人に向けて罵声を挙げそうになった。だけどそれは決して誰も得をしないことを分かっていたから、「失礼だな~」などと半笑いを見せ、そうして去って行く背中を、何度も何度も刺す想像だけをした。

 やがて、雨の降る神社で抱いた子猫を想った。

 子猫は、長いワンピースに爪を引っ掛けて、懸命にその布を渡った。そうして辿り着いた肩に頭を乗せて、されるがままに撫でられた。夏が終わり秋が導く、ぐんと下がった気温と反して、子猫の温もりはどこまでも温かい。子猫は帰路に着こうとする車の中までやって来て、やっぱり布を渡ろうとするが、私は子猫を抱くしかできず、連れて行くことはできなかった。ミラーに映る子猫をずっと覚えていることしかできなかった。

 こうして後悔というものは生まれるのか。

 私はこの子猫のことを、日記に、あの日から毎日、毎日書き続けている。 ”子猫は今どうしているだろうか”、”どうか元気でいてほしい”、”神様に守ってもらえますように”、と。 多くの参拝者が訪れる神社だから、きっともう誰かに飼われているかもしれないし、まだ飼われていなくとも、私を忘れて楽しくやっているかもしれない。それがいい。そうでいて欲しい。私はこの出来事を後悔ではなく、自分らしい愛護だと思うようにした。そうして、自分が今一緒に生きている猫たちと同じように、毎日あの体温を思い出して抱擁しようと。 だから「女らしくないのに?」とたった一言を言われたとき、私は子猫に救いを求めたんだ。あの小さな子猫から伝う体温を忘れられないように、誰かを愛おしく考える気持ちに祈りを託した。

 貴様を気にして女らしくしなければならないのか?
 女らしくない人が恋をしてはいけない?
 恋をすることに決まりなんてあるのだろうか?

 子猫の性別を知ろうとも思わなかった。この子が好きなところで、好きな人と一緒に、好きなように 生きてさえくれば、女の子だからこんな性格で、男の子だから虚勢手術しなきゃかなんて、考えもしなかった。降る雨がまだ冷たくないうちに、温かく眠れる寝床を見つけられているといい。f:id:yotteiru:20210905001105j:image