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思いついたときにただ色々書いています

ニキビ

朝と昼の間、目覚める。顔を洗おうと洗面所に立ち、鏡を見る。ニキビが頰にできている。

こいつは今でさえポツリとあるが、次第にゆっくりと顔を侵略していくからタチが悪い。

まるで自身の圧倒的栄養不足と、ホルモンバランスの不安定さ、免疫力低下、そのほか、ちゃんと保湿しろだの、化粧を落とせだの、”内なる声”が姿を現して、責め立てるように顔を侵略していくからタチが悪い。

 


そういえばー、と、冷水が温水に変わるまでの間に、かなり歳上の友人が「ニキビできちゃった」と言ってから、「あ、吹き出物」と言い直していたことを思い出した。

確か私は「いや、ニキビでいいっすよ」と返して、それから”ニキビと吹き出物の境界線ってどこなのか”、”その境界線を作る必要はあるのか 否か”についてをひたすらに話した。今思えば、彼女のあの言い直しって「まあ、私もオバさんだし」に対する「いやいや!そんなことないっすよ!」待ちか。…オバさんだな。確かに”ニキビ”って感じではない。潤いのない感じ。”吹き出物”という言い方は適切だし、私はまだ”ニキビ”と言いたいと志願した。

 


ーーー 今日は、全てのことを天が許すとされる「天祓日」、そして一粒の籾が何倍にもなって稲穂が実るとされる「一万倍日」が重なる、大変良い日です。迷っていることを始めたり、何かを決心することに背中を押してくれる、そんな素晴らしい日です。

 


朝と昼の間に放送される番組に圧力をかけられてから始まる一日の、どこが素晴らしい日なのか。こっちは朝からニキビが発育しやがって、保守的にいこうとしているのに。アクティブ/アグレッシブな生き方を勧められ、やるせない。...しかし、人間の心理的に、ちょっとでも運とか縁起とかに頼ろうとしがちなのも否めない。一旦、保守的でいこうとするのはやめて、今日は最強な日だと意識して、能動的に過ごそうと決意する。

 


飼い猫とスキンシップをとったあと、ホットココアをマグカップに注ぎ、自分の部屋へと運ぶ。ついでに着替えと化粧を済ませて、少し時間があるからと、音楽を聴きながら未読の雑誌を読んだ。耳と目、一度にインプットされる情報が過多であることを自負しながらも、いやいや、ここは保守的になってはならないと、頑張って聴く/読む。どちらの内容も100%で入ってこず、やるせない。

 


吸いかけの煙草を手からするりと落とした。車のエンジンをかけた瞬間に給油ランプが点滅し出した。仕事先が忙しかった。食欲があまりないのに、わざわざ昼食(といっても食べたのは16時頃)を食べた。帰ってから2時間も動かずにスマホを見ていた。

 


気づけば、『「天祓日」と「一万倍日」が重なる大変良い日』と名付けられた今日も、後30分弱で終わろうとしていた。

今日一日、保守的になるまいと決意したのにも関わらず、アクティブ/アグレッシブに生きた心地は皆無だった。手応え全くなし。

もう落とすまいと気をつけて煙草を吸ったし、ガソリンを無駄にせぬようとエコに走ったし。忙しさに重ねて面倒を起こさぬようとマニュアル通り働いたし、疲れを忘れさせるために満腹感を欲した。むしろ、いつもより気を張り詰めた、”保守的にならないための保守”があったように思う。

だから言ったんだ、やるせない一日の予感は的中した。

 


電気ストーブのモードは「強」。ホットカーペットも最高温であり、家中の加湿器不足(皆、自分の部屋へと持って行ってしまう)のため、部屋の湿度は0。

ここには潤いというものが一切なく、完全に顔を我が物にしたニキビたちでさえ、吹き出物と呼ばれるのに相応しいほど乾燥している。

そしてこの最強な日に何の手応えも感じられなかった自分にも、潤いのなさを感じた。

 


やがて私はパソコンを開いて、この文章を書き始めた。

書きながら思う。今の私には潤いがあるとは到底言えなくて、でも潤いを欲していて、だけど求めているだけで何か行動できている訳でもない。ニキビを吹き出物と呼ばれる日を、ただ待っているだけ。だから今こうして言葉にして、ちゃんとしろよと気を奮い立たせる。言葉にすると不思議なもので、やらねばならないことと、決意せねばならないことが浮かんでくるから、やがて私は言葉に奮われて、この最強な日が終わろうとしているギリギリに、決意が完成するのである。

決意の中身は人様に宣言するものではないが。

 

 

 

 


「皆さんは何を始めましたか?決意しましたか?」

誰かが誰かに尋ねているツイートがタイムラインに流れてきた、今日が終わる5分前。私はこの文章を書きながら、ーーを始め、ーーと決意した。

 

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